2018-01-01から1年間の記事一覧

狂気の多様性――吉村萬壱『前世は兎』(集英社・2018)

兎から人間に生まれ変わった者は、「気持ち悪い!」と思う。人間の世界ではすべてが名づけられている。兎の世界が単に生きることだけに向かっていたのとは大違いなことに。それに加え、名前があるために許された無秩序さで物体は並んでいる。まるで「百科事…

灰色の抵抗――和田洋一『灰色のユーモア 私の昭和史』(人文書院・2018)

第二次世界大戦中、文化人はどのように生きたか。そこに圧政にも負けず、自らの思想信条を守り、英雄的に戦ったひとびとの姿を見たいという気持ちは自然なものだろう。しかし、『灰色のユーモア』に綴られているのは決してそうした「白い」姿ではない。たし…

書くことでは何も変えられないけれど――こだま『ここは、おしまいの地』(太田出版・2018)、爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社・2018)

ほぼ同時に発売された二冊の本、『ここは、おしまいの地』と『死にたい夜にかぎって』。著者のこだまさんと爪切男さんは、以前からともに活動している仲間でもあるそうです。同時に発売されたこと、ともに活動していること、こうした事情は偶然にすぎません…