『スクリブナー思想史大事典』詳細目次

今年、2016年1月に発売されました『スクリブナー思想史大事典』(全10巻、703項目)の詳細な目次を作成しましたので公開します。

皆さまのご研究の糧にしていただけましたら幸いです。

 

スクリブナー思想史大事典目次

 

色々と見づらい点、誤字脱字など不備も多数あるだろうこと、あらかじめご了承ください(何かお気づきの点などございましたらTwitter(@ishoukiyou)でご連絡いただけると助かります。確認の上、適宜反映させていただきます)。

概要としては

①「邦題」、「原題」、「著者」、「訳者」、「通し頁数数」という項目に分ける。

②小項目も著者基準で分割し、それぞれ「大項目(小項目)」という形で並べる。

という形で作成しました。

どうぞご利用くださいませ。

 

 

さて、同事典について簡単に感想など述べておきます。

 

同事典は原書タイトルを New Dictionary of the History of Ideas といいます。1973―74年に刊行された Dictionary of the History of Ideas (邦訳『西洋思想大事典』平凡社)の新版として、2005年に出版されました。特徴については、第1巻に序文がありますし、その他出版社サイト、編集委員長・野家啓一さんのインタビューが先月公開されていますので、それらをご参照いただくのがよいかと思います。

 

個人的な感想を記しておけば、やはり各人が言われているように、いわゆるポストコロニアル理論、フェミニズムクィア理論、カルチュラル・スタディーズなどなどの新しい学問分野の関心が大きく反映されていることにまず気づきます。目次の Excel ファイルで「アフリカ」や「ラテンアメリカ」、「女性(母)」など検索していただければ一目瞭然です。それに伴って、芸術や文学に関わる項目は存在感を薄くしているようにも思われますが、仕方ないことでしょう。

 

しかし、それは単なる学問領域の拡大ないし変化というレベルの出来事なのでしょうか。もし本事典が「人間性」についての事典と銘打たれているのだとすれば、これは「学問」の問題ではなく「人間」の問題なのかもしれません。

 

しかし、そのような断絶を判断するのはどのような「人間」なのでしょうか。グローバルな事態を見渡す「人間」とは? その人はひどく超越的な場にいるように思われます。例えば日本語版序文――「内容的にも「観念史」を超えていますので、タイトルはより一般的な「思想史」に改めました。」、「旧版の編集方針は、時代的制約からやむをえないことなのですが、項目選定が「ヨーロッパ思想」に偏しており、記述にもヨーロッパ中心主義(Eurocentrism)の色彩が見られる」。あるいは原書序文に頻出する「グローバル」という言葉。このように判断するとき、「人間性」はどこではたらいているのでしょうか。

 

もちろん「人間性」はある種のリアリズムに根拠を持ってはいないでしょう。しかし、とは言え、「この」人間(私、身体…)から離れた場所で語られる「グローバル」な「人間性」には不思議さを感じます。アフリカとラテンアメリカ、女性や東洋の項目を増やすことで、どこのだれの「人間性」が問題にされているのでしょうか。そしてそのような方針でグローバル性が増すと判断する人間はどこにいて、そのグローバリズムという思想は本当に「グローバル」な人間によって是認されているのでしょうか。そうした判断の立場について、項目を並べてみると疑問がわいてきます。

 

またもう少し異なった視点から言えば、そのように断絶された旧いものがしっかりと理解された上で乗り越えられているのかという点も疑問です。特に、「観念史」という方法論はどのようなものなのか。「ヨーロッパ中心主義」の本質的な問題点はどこにあるのか。こういったことの考察無しに断絶を志向するとすれば、それは決して「新たな」方法には成り得ないでしょう。

 

そうした意味合いもあり、逆に新版がどのような視点を取っているのか、というところから旧版を見据えつつ、例えば高山宏のような人が言う旧版の強みとは何なのか、それの何が真に「人間性」に益するのか、ということを考えなければならないような気がしています。まずは全体の見取り図を知るためにこのような目次を作成しました(ある程度の目次ならネットで見れてしまいますし、こちらの方が主たる動機かもしれません)。今後は細かな項目に沿って見ていくことで、批判点の所在など確かめられれば良いかと思います。また、その成果はこのブログで適宜紹介していくことができればとも思います。