惨めな「ワナビー」たちの小さな革命――ロバート・ダーントン『革命前夜の地下出版』(岩波書店・1994)

 

獄中から、つらつら考えたとき、ブリソーにとってアンシアン・レジームなるものは、彼自身のような自由な精神を圧し潰す陰謀であるかのように見えただろう。シャルトルの酒場経営者の一三番目の息子として生まれた彼は、これより七年前に、パリを首都とする文芸共和国の尊敬すべき市民としての地位を獲得しようと試みたのだった。その目的にふさわしいテーマについて、彼は何千ページも書いた。(…)若い文筆家としてなすべきことは何でもやったにもかかわらず、パリは彼をフィロゾーフとして認めようとしなかった。

 

フランス革命期にジロンド派の指導者として活躍したジャック=ピエール・ブリソーという人物がいる。自身の回想録で彼は、自分が革命精神を体現する一生を送ったのだと主張する。フランス革命期に生きた「一つの世代の願望の完全な象徴」、歴史学者はこうしたブリトー像を認めてきた。しかしダーントンは彼を検討する章に容赦なく次のようなタイトルを付ける。「どん底世界に棲むスパイ」。

 

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『スクリブナー思想史大事典』詳細目次

今年、2016年1月に発売されました『スクリブナー思想史大事典』(全10巻、703項目)の詳細な目次を作成しましたので公開します。

皆さまのご研究の糧にしていただけましたら幸いです。

 

スクリブナー思想史大事典目次

 

色々と見づらい点、誤字脱字など不備も多数あるだろうこと、あらかじめご了承ください(何かお気づきの点などございましたらTwitter(@ishoukiyou)でご連絡いただけると助かります。確認の上、適宜反映させていただきます)。

概要としては

①「邦題」、「原題」、「著者」、「訳者」、「通し頁数数」という項目に分ける。

②小項目も著者基準で分割し、それぞれ「大項目(小項目)」という形で並べる。

という形で作成しました。

どうぞご利用くださいませ。

 

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美味しい韓国料理の修辞学――李禹煥の言葉から

昨年、第21回文学フリマ東京(2015年11月23日)にて発行された、尊厳さん制作の食と性に関するZINE『食に淫する』(詳細は以下。5/1の第22回文学フリマ東京では第2号が発行されます。)に「美味しい料理の修辞学」というタイトルの評論を寄稿しました。

shokuniinsuru.tumblr.com

文中で明らかにしているように、これは廣瀬純『美味しい料理の哲学』に着想を得て書いたものです(廣瀬さんは最近『美味しい料理の哲学』の続編をネット上で書き始めておられます→廣瀬純「おいしい料理の哲学」#1 切断について | FOODIE(フーディー))。

 

同書で取り上げられた料理の一つにヌーヴェル・キュイジーヌなるものがありました。「ヌーヴェル・キュイジーヌ」とは1970年代にフランスで現れた、素材を優先する簡素な傾向を持った調理法のことで、廣瀬はこれを出来合いのレシピを提供するのではないある種即興的な料理のあり方の例として用いていました。確実には得られない、要素の関係性に価値を見出し、それを「美味しさ」として言祝ぐのです。そこで私は、その「即興的な料理」を「読み取られ得る意味」へと転換してみることで、ここで言われているのが一種の修辞学の問題なのではないかという議論を行いました。

 

しかし日本のいわゆる「もの」派を主導した現代美術家である李禹煥は、「ヌーヴェル・キュイジーヌ」に対して真反対の意見を述べています。

 

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本の姿態――ピーター・メンデルサンド『本を読むときに何が起きているのか』刊行記念 高山宏×山本貴光対談を聞いて

7月21日(金)はピーター・メンデルサンド『本を読むときに何が起きているのか』刊行記念として行われた高山宏さんと山本貴光さんの対談に行ってきました。

そこで話された内容を含めつつ、考えたことなどをまとめておきたいと思います。

 

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